Research
研究内容
4.リン代謝のデザインとバイオテクノロジー
遺伝子組換え技術とバイオテクノロジーのこれから
遺伝子組換え技術は、現在のバイオテクノロジーの基盤を支える重要な技術です。この技術は1970年代に開発され、医療、農業、化学工業、食品産業といった幅広い分野で私たちに多くの恩恵をもたらしてきました。
近年、遺伝子工学の進展はめざましく、次世代DNAシークエンス技術やゲノム合成技術の発展により、さまざまな遺伝子組換え生物を作製することが可能となっています。現在、遺伝子組換え微生物の利用は完全に閉鎖された環境で行われていますが、環境浄化やバイオ燃料生産など、屋外での利用を想定した組換え体の開発も進められています。
遺伝子組換え微生物のバイオセーフティー技術
これらの遺伝子組換え生物の利用は、現在の地球規模の課題を解決する可能性を秘めていますが、屋外環境での利用は生物多様性への影響が懸念されるため、その社会実装については入念な検討が必要となります。そのような観点から、生物多様性へのリスクを低減させる技術として、組換え体の増殖を特定の条件のみに制限するバイオセーフティー技術が注目されています。
リンの代謝を利用した生物学的封じ込め技術の開発
リンは生物の増殖をコントロールするための物質として、非常に有効な栄養塩です。私たちはバクテリアのリンの代謝メカニズムを深く理解し、特殊なリン化合物の代謝酵素を利用することで、リンの代謝経路を「デザイン」し、宿主生物の生存を極めて厳密に制御する技術を開発しています。
このようなバイオセーフティー技術は「生物学的封じ込め技術(Biological containment)」と呼ばれ、現在世界的に研究が進められています。
この他にも、通常の生物が利用することのできないリン酸以外のリン化合物を代謝する能力付与する技術は、他の生物が増殖できない条件下で優先することにより選択的な培養技術を可能にし、抗生物質や培地・装置の滅菌を必要としない微生物の大量培養を可能にします。

上図左に示すようなリンの代謝経路の改変を行うことで、宿主微生物に対して亜リン酸(HPO32-)への依存性を付与することが可能になります。亜リン酸は環境中にはほとんど存在せず、存在したとしてもその量は極めてわずかであるため、通常の環境中ではこの株は増殖することができません。つまり、目的とする培養施設/設備だけで増殖し、仮にそこから散逸してもそこでは生きていくことができません。