Research
研究内容
1.リンの生物循環に関する研究
リン資源枯渇の危機
リン(P)は核酸やATPなどの成分として、生物にとって必須の元素であり、食糧生産のための肥料としても欠かせない物質です。世界人口が80億人を突破し、なお増加し続ける中、リン資源の確保は世界各国の主要課題のひとつとなります。さらに、リンは半導体生産や化学産業などの工業分野においても重要な役割を果たしています。
しかしながら、リンの原料となるリン鉱石の埋蔵量は減少の一途をたどっており、近い将来に枯渇することが懸念されています。また、現在の主要な供給国が特定の国々に限られているため、地政学的な影響を受けやすいという課題もあり、リン資源の安定的な確保は今後さらに重要性を増していくものと思われます。
リンの問題の二面性
経済的に採掘可能なリン鉱石が減少する一方で、人類が採掘したリンが肥料や工業排水として拡散し、水圏に流出すると、富栄養化が引き起こされます。その結果、有毒な藻類の異常増殖などにより、溶存酸素濃度の低下や水質の悪化が引き起こされます。
このように、リンは貴重な資源でありながら、偏った利用によって環境負荷を高める二面性を持つ物質ですが、この相反する状況を作り出しているのは、私たち人類の活動に他なりません。リンの地球規模での生物地球化学的な流れ(生物循環)は、窒素(N)と並び、既に地球システムの限界を超えているといわれています。持続可能な社会発展と環境保全を両立させるためには、リンと環境の関係をより深く理解し、産業との関わり方を考える必要があります。

リンと微生物 〜私達の研究アプローチ〜
バクテリアは、環境中の希薄なリンを取り込んで蓄積したり、バイオマス由来の有機態リンを無機化(分解)したりして他の生物に提供することで、自然界のリン循環や健全な生態系の維持に大きく貢献しています。しかし、その機能や役割については、まだ十分に解明されていません。
私たちは、様々な形態のリンの循環に関わる微生物を、多様な環境から探索し、その働きや仕組みを酵素や遺伝子といった分子レベルで解析しています。この研究を通じて、リンの有効活用や環境負荷の軽減に貢献する新しい技術の開発に取り組んでいます。
リンが無ければ現在の生命は誕生しなかったと考えられています。なぜリンでなければならないのか?
リンと生物の関わりを深く探ることは生命の発生や進化にもつながる非常に興味深い研究です。
