Research

研究内容

3.リンの酸化と還元

酸化還元反応と微生物

生物を構成する主要な元素として、炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)がありますが、いずれも酸化数の変化が±8にわたるダイナミックな酸化還元が微生物を介して起こります。メタン発酵、窒素固定−硝酸還元、硫黄酸化−還元などは、微生物がエネルギーを獲得する手段として利用する反応ですが、これらは自然環境に大きく影響を及ぼすため、健全な生態系の維持においても重要な現象です。

リンの酸化還元

これまで一般的に、リンに関しては酸化状態の変化は起こらず、酸化数+Ⅴのリン酸(正リン酸)の状態でのみ自然界を循環するとこれまで考えられてきました。しかし、興味深いことに、近年、多くのバクテリアにリンの酸化能力が次々と発見されています。このことは、自然環境でもリンの還元が起こっている可能性を示唆しており、もしそうだとするならば、自然界において実際にリンの還元に関わるプロセスが存在するかもしれません。

無機リン化合物の酸化型と還元型
比較しやすくするためにイオン化状態は同じpH条件ではないもので表記しています。
リン酸のpKa2は7.21, 亜リン酸のpKa2は6.79で、pH 7.0ではそれぞれH2PO4-(一価イオン), HPO32-(二価イオン)が支配的になります。

リン化合物からエネルギーを生み出す!

還元された状態のリン化合物は、酸化される際にエネルギーを生じます。例えば亜リン酸(HPO32-)を利用するバクテリアの中には、亜リン酸がリン酸に酸化される際に生じるエネルギーに依存してNAD(P)HやATPを作り出す珍しい酵素を持っている独立栄養性のものも存在します。これらの酵素は、反応機構やタンパク質の分子進化にも非常に興味が持たれますし、高価格の補酵素類を安価に再生するシステム(補酵素再生系)として利用することもできます。私たちはこのようなバクテリアの環境中での役割を解析し、また、リン化合物から生命エネルギーを生み出す酵素を新しいバイオテクノロジーのツールとして利用する試みも行っています。

上部へスクロール